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アラスカ7日目

これは2011年の夏、

僕がでかいバックパックを背負い、
たった一人でアラスカを旅したときのはなし。












7日目




天気は快晴。

じりじりと照りつける日の下、
20kgはあるであろうバックパックを背負い、
ひたすらアスファルトの上を歩く。





昼過ぎ、

やっとスタンピードロードの標識を発見する。



標識の下で腰を下ろし、
スニッカーズを食べ、
水を少し飲んだ。



5分ほど休んだのち、
僕はついにスタンピードトレイルを歩きはじめた。

僕がアラスカに行きたいと思ったきっかけも、いちばん行きたかった場所も、すべてはここにあった。







2年半前、

イントゥ・ザ・ワイルドという映画を観た。




あらすじを説明すると、
今から20年ほど前、アメリカの若者が財産を全て捨てて旅に出た。

2年の放浪の末、彼が最後に目指したのがアラスカだった。

彼はアラスカの荒野でバスを見つけそこに住みつき、荒野で自給自足の生活を始めた。
もともとそのバスはハンター達の避難所として使われていたものだった。

しかしその4ヶ月後、彼はそのバスの中で餓死した状態で発見された。



そしてそのバスが位置するのがスタンピードトレイルなのである。




スタンピードトレイルを歩きはじめてから3時間後、
今までアスファルトだった道が未舗装の砂利道になる。



道はさらにひどくなり、
でこぼこになり、
水たまりだらけになり、
石だらけになり、
沼地になり、
さらには川の水が流れ込んで道が川となっている場所もあった。





たまに誰かがキャンプしたような跡を見つけた。



人間は道が未舗装になってから見ていなかった。



たまにリスを見た。







新しく買った靴とジーンズは泥まみれになり、
ヒートテックも砂まみれになった。





バスまでにたどり着くには河を2つ渡らなければいけなかった。





しかしいくら歩いてもいっこうにそれらしき河が見当たらない。
道もタイヤの跡があるのみで本当にこの道であっているのか不安になってきた。




スタンピードトレイルを歩きはじめてから5~6時間は経っただろうか。



身体の疲労は限界にきていた。



重たいバックパックは肩に食い込み、
左足のかかとの皮がはがれ、
小指の爪は内出血していた。





大きなビーバーのダムを見つけた。

すぐ横の少し高い場所にむかし誰かがキャンプした跡があった。



身体の限界を感じ、そこにテントをはることにした。





道が正しいのか確信が持てなかったため、
荷物をそこに置き、もう少し先まで歩いてみようと思った。

疲れてはいたが、重たい荷物がないため足どりは軽かった。








15分ほど歩いただろうか、



小川の水が道に流れ込み、土は柔らかく、歩きずらかった。







足元に注意しながら進んでいくと全く予想外のものを発見した。








熊の足あとがきれいにくっきりと柔らかな土の上に残されていた。



自分の足あとと比較するとさして変わらない、新しいものだった。
10mほど先にもいくつかあった。






この道を熊が歩いていたのは明らかだった。









アラスカで熊といったらいちばん危険な野性動物である。



特にグリズリーは体長が3mもあり、人間なんで腕の一振りで殺せる。

いちばん荒野で出くわしてはいけない動物であり、出くわすということはつまり自分自身の死である。







火照っていた身体が急に冷めた。


しばらく考えたのち、
急いでビーバーダムへ戻りテントを張り、
夕食はテントから50m以上離れたところで温めもせず、いそいで食べた。





テントへ戻ると美しい夕陽がビーバーダムをきらきらと照らしていた。

しかし美しい夕陽は僕になんの感動も与えてはくれなかった。



その夕陽は迫りくる日没を意味し、恐怖と不安を増幅させた。

もし僕が守られた環境にいたならば、
大自然の中で見る夕陽に涙したかもしれない。



だが実際、僕はたった一人でアラスカの荒野にいたのだ。












寝袋の中で明日どうするか考えた。




進むか、戻るか。




たまに父が「引き際を見極めろ」みたいなことを言ってたのを思い出す。


何人かの友達に冗談なのか知らないが「生きてかえってこいよ」と言われたのを思い出す。


















明日の朝、引き返すことにした。











熊への恐怖の中、眠りについた。

少しの物音にも敏感になり、
何度も起きた。





夢で熊が襲ってきた。


目が覚めて夢だったか、と思ったらまだそれも夢でまた熊が襲ってきた。


そんなのが2、3回繰り返された。夢の中の夢の中の夢。

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